雑多な文章

奥多摩でのキャンプ体験(と、その失敗)について その1


初めてのキャンプにチャレンジ

リュックの中には、テント、寝袋に、食べ物や飲み物が詰まっていた。

それは、9月の終わりのまだ温かい日。
JR青梅線「川井駅」を下りると、歩いて「川井キャンプ場」へと向かう。
自分は初めてのテント泊を体験しに来ていた。

きっかけは2年前、雲取山の登山ツアーに参加したこと。

1泊2日の行程は楽ではなかったが、
頂上からの展望や、広大な雲海、そして山の上で見る朝日など、
感動的な景色にたくさん出会えた。 

   

雲取山は自分にとって、大きな憧れとなった。
「なんて良い山なのだろう。今回はガイド付きだったけど、次は一人で登って、テントで山中泊しよう」
と決意した。

そして今年。雲取山に行く前に、まずはキャンプ泊をやっておこうと決めた。
モンベルのテント(目玉が出るほど高かった)を購入すると、ついにキャンプデビューをすることになった。

川井キャンプ場へ

川井キャンプ場は目の前に川が広がり、頭上に大きな橋がかかる、のどかな場所だった。

  

受付に行くと、テント泊の料金(800円)を払った。安い!

受付の人は受領書を渡すと、
「増水の危険があるので、あまり川岸にはテントを張らないでくださいね」
 と言った。

河原にはデイキャンプに来ている家族連れ・大学生グループと、何をするのか、一人でテントを張る男性がいた。
河原はあまりに広すぎて、どこにテントを張れば良いのか皆目見当がつかなかった。
どうしよう、地面が砂になっている場所がいいのか? 石の方が良いのか? 周りの迷惑にならないよう、川から離れた方が良いのか?

 

さんざん迷ったが、川からほどよく離れた砂地にテントを設営することにした。

ポール事件

いよいよ、テントの設営の開始。
設営は初めてだが、動画を何度も見たので準備は万全だ。

まずはテントを広げる。

続いて、支柱となるポールを組み立てていく。
あれ? ポールが……ポールが……

ポールがない。
「まさか。ちゃんと棒みたいなやつを持ってきたはず」
と ザックをあさってみるも、それは「ペグ(留め具)」だった。短い……

ああ。奥多摩までテントの設営の練習に来たのに、まさかポールを忘れるなんて。
今から2時間かけて、家まで取りに行くか? そんなのバカバカしすぎる!

ショックのあまりヒザを抱えて座ると、20分ぐらい川を眺めていた。 

気持ちを切り替えたくて、心の中で「ポジティブなメンタルトレーナー」のようなものを呼び出すと、
「まぁ、本番でなかっただけマシだよ!」
「ポールがなくても、テントの中には入れるから大丈夫!」
「まだ9月だから、夜でも寒くないはずさ!」
と、ひたすら自分を励ました。

奥多摩駅~奥多摩湖トレッキング

時刻はまだ午後1時過ぎ。夕方までトレッキングして時間を潰す予定だった。
気を取り直して荷物をまとめると、電車に乗って奥多摩駅へ。 

奥多摩駅を出発すると、奥多摩湖までの10kmをトレッキングした。
雲取山に登る予行演習のつもりで、テントから食物まで、フル装備の状態で歩いた。もっと重いと思っていたけど、これぐらいならいけそうだな。

わかりきったことだが、奥多摩はとんでもない田舎。
道路なのか山道なのかもわからないような道を歩いた。

そんなど田舎にも、民家がちらほら建っている。
自分は郊外に建っている家を観察するのが好きだ。

  

ほとんど人がいない場所で生活するのは、息が詰まりそうなほど孤独なのか、
それとも鼻歌を歌いたくなるぐらいのどかなのか、どっちなんだろうと思う。

途中、吊り橋の前を通りかかった。
怖さを演出するためなのか「5人以上で渡らないでください」などと書かれている。
「良い大人なんだから、吊り橋ぐらい余裕でしょ」
と思って、橋を歩いてみた。

ふざけて橋を揺らしたら、「ガシャンガシャン!」とシャレにならないほど揺れたので、途中で引き返した。

また、サルを見かけた。奥多摩にサルっているんだ。
サルは電線の上を歩くと、一定の距離を取りながらこちらを観察していた。
10分ぐらいの間、ずっとサルに見下されていたわけで、それはもう腹が立った。

 

道路を歩いていたはずが、いつの間にか「奥多摩むかし道」という山道につながっていた。
念のため熊よけの鈴を装着すると、リンリンと音を立てながら歩いた。
ふと角を曲がったところで、黒い大きな生き物と出くわした。
「あーヤバイ、クマだ!」
一瞬息が止まった。

違う、この生き物はクマじゃない。この生き物は……なんだろう。
家に帰ったあとで調べたら、それは「カモシカ」だった。

出発して2時間後。時刻は午後4時を過ぎていた。10kmなら2時間半で歩けるので、そろそろゴールしても良いはずなのに……

自分はあせっていた。森の間から一瞬ちらっと奥多摩湖が見えたのだが、道は深い森に入ってしまっている。

奥多摩湖から駅に戻るバスは、1時間に1本しか出ていない。次のバスが出るまであと20分。なんとしてもそのバスに間に合いたかった。
日が沈み始め、少しだけ暗くなり始めたころ、なんとか森を抜けた。

奥多摩駅へ帰還~キャンプ場へ

午後5時過ぎ、無事に奥多摩湖に到着。
発車10分前にバス停に着いた。
  
 
奥多摩駅に帰還。
夕方の奥多摩駅は、帰宅する登山客で慌ただしかった。


 
トレッキングで汗をかいたので、時間もないのに「奥多摩温泉 もえぎの湯
でひとっ風呂浴びた。
 
 「キャンプ場に戻る頃には、真っ暗になっているだろうな……」
と不安になったが、それよりもお風呂を優先した。
 
お風呂を出た頃には、すっかり日が沈んでいた。
「どっぷり」という単語が似合うほど、瞬く間に辺りが暗くなっていく。

山々の稜線は、まるで影絵を切り取ったように濃い黒色をしていた。

山で日が沈むと、本当に1日が終わってしまったという感じがする。
 
奥多摩から川井駅へ戻る。
自分は登山でよく奥多摩に来るけど、いつも夕方前には帰っている。
そのため、夜の奥多摩はとても新鮮な光景だった。
 

初めてのテント泊(仮) 

キャンプ場に帰還。
 
河原には自分以外に誰もいなかった。

一人で来ていた男性のテントは、もっと川の下流にあり、気配すら感じない。

 まずは楽しいテント設営。
テントを地面に敷くと、悪あがきで、拾った木の枝をテントに突っ込んで、ポールの代わりにしてみた。 
 
うーん、しょぼい。
結局、枝は固定できなかった。 ケーキのろうそくみたいに、パタンと倒れてしまうのだ。
 
仕方がないのでテントに寝袋を放り込むと、中に入ってチャックを閉めた。
まるでジップロックに保存されるあまりものみたいだと思った。
地面に寝転がると、河原の石が背中にゴリゴリと当たって、整体マッサージを受けているかのよう。 
 

頭上には、橋と空が広がっていた。 

それは「空を見ながら眠る」という、生まれて初めての体験だった。
周りには360°誰もいない。川の流れと、虫の鳴き声が聞こえるだけ。

ざぁざぁ、りんりん。ざぁざぁ、りんりん。
 
自然の音は耳に迫るほどの大音量なのに、少しもうるさく感じられなかった。
 
生まれて初めての野宿は、不思議とちっとも怖くなかった。
人間も結局は動物なのか「これが自然なんだ」という気持ちさえあった。
 
夜空を見上げていると、空の深さに驚かされる。
見ているとどんどん視線が吸い込まれていって、目が離せなくなる。
そうやって空を見ていたら、催眠術をかけられたみたいに眠くなっていった。
 
午前5時。
空が明るみ始め、ハッと目が覚めた。

 
はじめは足元もおぼつかないほど暗いのに、時間がたつに連れて、
景色の輪郭が少しずつ明らかになっていった。
静かで、怖くなくて、朝って良いなと感じた。


 
初めてテント(仮)で寝た感想は、「あんまり疲れが取れないな」だった。 
 
川の湿気で、テントも寝袋もびしょびしょになっていた。雑巾みたいにしぼれそうなほどだ。
 
河原を歩いていると、下流の方で釣りをしている人がいた。
なるほど、昨日の男性は、朝釣りが目当てだったのか。
 
川の水で顔を洗うと、お湯を沸かしておしるこを作り、その中にお餅を入れて食べた。(登山食で、水で戻せるお餅がある)
おいしい。でも昨日運動したからか、しょっぱいものが食べたいな。


荷物をまとめると、寄り道せずにまっすぐに家に帰った。

家に帰ると、部屋にあったポールを片手に今度こそテント設営の練習。
難しいと思ったけど、意外と簡単にできた。 
  
以上が、初めてのテント泊と、その失敗についての顛末である。

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